私的整理ガイドライン

私的整理とは、裁判所が関与せず、会社と債権者とが個別的または集団的に任意交渉をし、弁済額や弁済方法につき債権者全員の同意を得て、会社を清算または再建する手続きです。
事業者が経営破綻しそうになっている場合に、債権者と債務者の間で資産負債の整理について協議を行い、清算または再建に向けた事後処理の方針を決定し、進めていきます。
私的整理は、「私的整理に関するガイドライン」があります。
この記事では、私的整理ガイドラインについて、説明します。

1.私的整理ガイドラインとは

私的整理ガイドラインとは、平成13年に政府が発表した緊急経済対策を受けて採択されたもので、法的手続を使わず債権者と債務者との合意に基づき、債権放棄などを行うための手続規定です。
経済団体連合会や全国銀行協会などを委員とする私的整理に関するガイドライン研究会が公表しました。
法的拘束力はありませんが、企業の私的整理に関する金融界・産業界の経営者間の一般的コンセンサスとされています。

2.私的整理ガイドライン制定の背景

平成13年4月の緊急経済対策において、「金融機関の不良債権問題と企業の過剰債務問題の一体的解決」を促進するため、多くの対策が盛り込まれましたが、こうした対策の一つとして「経営困難企業の再建及びそれに伴う債権放棄に関する原則の確立」が挙げられました。
債権放棄のためには、民事再生法・会社更生法などに基づく法的整理と、債権者と債務者の合意による私的整理とがあります。
法的整理の場合には債務者の事業基盤が著しく毀損される等のダメージを受ける場合があります。
一方、私的整理は、債務者のブランド力や商品供給が確保される等の事業価値の減少を最小限にしながら再建できるという利点がありますので、法的整理ではなく私的整理で処理することにも意義があると考えられます。
しかしながら、私的整理による債権放棄については、透明性や公平性に疑義があるという批判や、債権者の合意をとりつけることに相当な労力と時間を要するという指摘がなされていました。
このような経緯から、企業の私的整理に関する基本的考え方を整理し、私的整理の進め方、対象となる企業、再建計画案の内容等についての関係者の共通認識を醸成するために、平成13年6月に「私的整理に関するガイドライン研究会」が発足し、「私的整理に関するガイドライン」を取りまとめました。

3.私的整理ガイドラインの特徴

①透明性と公平性

第三者である専門家アドバイザーが調査報告という形で関与するので、手続きや内容の透明性や公正性を確保するものになっています。

②債権の無税償却

金融機関が債権放棄をする場合、通常、税法上損金処理ができるかが重要になりますが、私的整理ガイドラインによる債権放棄などでは、合理的に債権放棄がなされたと推定され、税務上損金算入が認められて、債権者は債権の無税償却をすることができます。

③事業価値が毀損されにくい

金融機関等の主要債権者のみを相手として、一般の商取引債権者とは個別の取引はそのまま続けられることから信用を維持できます。

4.私的整理ガイドラインの利用状況

このガイドラインの手続きは、主要債権者(メインバンク等)が主導で行なう企業再建の手続きであり、裁判所はもちろん、債権者間の調整に客観的な第三者が関与することはありません。
このガイドラインによれば、再建計画は債務者とともに作成し、再建のための手続きを主導する主要債権者が、主要債権者以外の債権者から再建計画に同意を得なくてはいけないため、主要債権者の負担は相当重たいものとなります。
そのため、このガイドラインにもとづく私的整理については、①対象債務者について、主要債権者がそのような負担をしてでも事業再建をするに値する規模の大きい会社であり、②主要債権者については、そのような負担に耐えられ、また主に金融機関となる他の債権者を調整できるメガバンクなどであることが一般的と言えます。
また、私的整理に関するガイドラインでは、専ら金融機関を対象としており、株主・経営者は一定の責任を負担しつつも、3年以内に債務超過状態の解消と黒字化を目的として挙げています。
しかし、この3年以内の債務超過解消・黒字化という制度目標が、かえって債務者に大きな負担をかけることになってしまっています。
そのため、私的整理に関するガイドラインは、私的整理に関するルールを最初に明確化したものとして画期的な意味を持ってはいますが、実際の利用は大企業に限られ、利用件数は少ないのが現状です。

5.対象債務者となり得る企業の要件

ガイドラインによる私的整理の対象債務者となり得る企業の要件は、以下のとおりです。

  1. 過剰債務を主因として経営困難な状況に陥っており、自力による再建が困難であること。
  2. 事業価値があり(技術・ブランド・商圏・人材などの事業基盤があり、その事業に収益性や将来性があること)、重要な事業部門で営業利益を計上しているなど債権者の支援により再建の可能性があること。
  3. 会社更生法や民事再生法などの法的整理を申し立てることにより当該債務者の信用力が低下し、事業価値が著しく毀損されるなど、事業再建に支障が生じるおそれがあること。
  4. 私的整理により再建するときは、破産的清算はもとより、会社更生法や民事再生法などの手続によるよりも多い回収を得られる見込みが確実であるなど、債権者にとっても経済的な合理性が期待できること。

6.手続きの流れ

私的整理に関するガイドラインによる手続きの流れは、以下です。

①私的整理の開始

主要債権者(債権額上位行を含む複数の金融機関)に対し、損益、事業計画等の資料を添えて申し出を行う。

②一時停止の通知の発送

主要債権者は、資料を精査したうえで相当と判断したときは、債権回収、与信残高減額、担保提供等を一時停止することを求める「一時停止の通知」を、対象債権者全員に発送し、2週間以内に第1回債権者会議を行なう。

③第1回債権者会議

  • 財務状況についての説明の実施
  • アドバイザーの選任
  • 一時停止期間の決定
  • 第2回債権者会議の開催日時・場所の決定
  • 債権者委員の選出

④再建計画案の内容

  • 3年以内に実質的な債務超過解消と黒字転換
  • 経営者および株主の責任追及

⑤再建計画の成立

対象債権者全員から再建計画への同意書面提出時に再建計画が成立する。

7.よくある質問

このガイドラインによる私的整理と一般の私的整理とは違うのですか。どのような点が違うのですか。

私的整理とは、破産法・民事再生法・会社更生法などの法的倒産処理手続によらずに、多数債権者と債務者の合意により集団的に債権債務を処理する手続の総称です。
私的整理には清算型と再建型があります。
再建型のなかには、債務の弁済期日の猶予のみのものから、債権放棄を伴うものまでさまざまなバリエーションがあります。
私的整理は関係当事者の合意によって手続が進められるため、一定の方法は存在しません。
決まった方法がないために「任意整理」ともいわれております。
このガイドラインが想定している私的整理は、債務者と多数の金融機関等債権者が関わって進める再建型の私的整理手続であり、「私的整理」の全部を対象としていない限定的なものです。

手続の開始はどのようにすればよいのですか。どの段階で手続は開始されますか。

適格のある債務者が主要債権者に対して、このガイドラインによる私的整理を申し出ます。
この申し出にあたり、債務者は、過去と現在の資産負債の内容と損益の状況、及び経営困難な状況に陥った原因、並びに再建計画案とその内容などを説明するに足りる資料を提出します。
主要債権者は、提出資料を精査し債務者の説明を受けた上で、①債務者がこのガイドラインによる私的整理を開始する適格を有しているか、②再建計画案につき対象債権者の同意を得られる見込みがあるか、③再建計画案の実行可能性があるかなどを検討します。
その結果、一時停止の通知をするのが相当であると判断したときは、主要債権者と債務者は連名にて、対象債権者全員に対し一時停止の通知を発します。
一時停止の通知を出した段階で、このガイドラインによる私的整理手続が開始したことになります。

「重要な事業部門で営業利益を計上」とはどのくらいの水準ですか(対象債務者となり得る企業の要件)。

本業の営業利益が赤字のような企業の再建は難しいと判断せざるを得ないので、再建可能性を判断するための例示として「重要な事業部門で営業利益を計上している」ことを挙げています。
しかし、申し出時点では営業利益が赤字であっても、事業部門の整理統合などにより営業利益を黒字化できることが確実な企業までを排除していません。
また、適切な営業利益の水準は、業種によって異なりますし、個別の企業の状況によっても異なり、一概に何%が妥当とは言えませんので、具体的な水準や比率等を示していません。
しかしながら、計画期間終了後は、競争力のある、通常の財務体質の企業となる必要があります。
したがって、そのような計画が立案できるような営業利益を含めた事業利益やキャッシュフローをあげられることが前提になります。

「事業基盤が著しく毀損される」とは具体的にどのようなことですか(対象債務者となり得る企業の要件)。

「事業基盤が著しく毀損される」とは、例えば、法的整理になると納入業者まで巻き込んだ整理となるため、納入業者が競争力のある商品の納入を拒むなどのために営業が継続できなくなったり、また、法的整理で再建を目指した場合、倒産のレッテルが貼られ、ブランドイメージが劣化し、ユーザーが債務者の製品・商品の購入や発注を回避し、結果として事業が成り立たなくなって、清算に向かわざるを得なくなるケースなどを指しています。

債権者にとっての「経済的な合理性」とは具体的にどのようなものですか(対象債務者となり得る企業の要件)。

債権放棄における債権者の経済的な合理性とは、債権放棄を行うことで、債務者企業の再生に繋がり、当該企業向けの残存債権の回収がより確実になることにより、債権者の損失が最小限に抑えられることをいいます。
すなわち、各債権者にとっては、債務者が例えば破産法や民事再生法などの法的倒産処理手続に至った場合に想定される回収額よりも、私的整理において債権放棄を実施し事業を継続させながら、回収を図った方がより多くの回収が見込めることなどがこれに該当します。

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